「九条の大罪」第2話〜第8話「弱者の一分」編 ネタバレ感想 

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「闇金ウシジマくん」の作者、真鍋昌平先生の新作「九条の大罪」の第2話から第8話にかけて展開された「弱者の一分」編のネタバレ考察記事です。

あくまで私の個人的な感想です。著者の真鍋昌平さんの意図と違って捉えている場面もあるかもしれませんのでその点は差し引いて読んでいただければと思います。

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目次

問題となっているテーマ

問題となっているテーマは、法律と倫理に加えて、「道理」も加わっています。

法律と倫理のせめぎあいをテーマにする話は皆さんも耳にされたことがあるかと思います。

それが、今回は、法律や倫理に加えて、「道理」というものが大きなテーマとして物語を貫いています。

倫理を持ち出して九条弁護士を責め立てるのが、「NPO法人 司法ソーシャルワーク つぼみ」代表の「薬師前 仁美」と言う女性です。

司法ソーシャルワークとは

司法ソーシャルワークとは、自ら法的援助を求めることが難しい高齢者・障がい者等について,福祉機関等との連携を強化し,同機関から情報を得るなどして,被援助者にアウトリーチし,法的問題点については弁護士等,福祉的問題点については福祉担当者がそれぞれ担当して,全体として被援助者が社会内で自立して生活するための包括的な援助を提供する施策

出典:「法テラスにおける司法ソーシャルワーク」より

とのことです。

つまり、これまで、福祉は福祉、法律は法律、と、それぞれの専門家がバラバラに活動していたものを、専門家同士が連携を取り合って包括的なサポートをしてこれまで目が行き届かなかった問題を解決していくという取り組みのようです。

中でも、作中に出てくるように、何らかの障がいのために判断能力が低い方々をいいように利用しようとしたり搾取しようとしたりする周りの人間関係から本人を守ったりする場面もあるようです。

作中でも、薬師前さんは熱意と正義感のある女性として描かれています。ただ、若さゆえか、若干、軽率な感じの描かれ方もされているように思います。

今回は、「曽我部」と言う青年の出所後の仕事探しと部屋探しをサポートしています。さらっと、「特別調整」に乗らなかったから出口支援をサポートした、と書かれています。

「特別調整」というのは、ざっくり言えば、受刑者が出所後また以前の困窮した生活に戻って再犯することを防止するために設けられた公的な刑務所出所後の支援のことです。

それが乗らなかった、つまり、その公的支援の対象から漏れた、ということのようです。具体的なことは書かれていませんが、曽我部青年は、見た目はわからないけど実は軽度の知的障害者であると語られているので、支援対象となる要件である、「障害を有すると認められること」というのが認められなかったんじゃないかと推測できます。

それを、薬師前さんの団体が支援したわけです。例えて言えば、公的な救いの手からこぼれた落ちた者をすくい上げた、というような形になるわけです。

ただ、3ヶ月前から行方不明になっていたということです。薬師前さんの団体による支援の手からもこぼれ落ちてしまったというわけです。

薬師前さんはがっくり来たのか、呆れ返ったのか、そんなような大声を出します。弁護士の烏丸先生もちょっとたじっと来ているような様子。

まあでも、一生懸命やったのに無駄だったのかと思うとがっくり来るやら何やらでそう思っちゃうんでしょうかね。

不良の人たちに喰い物にされる曽我部

物語に出てくる「曽我部」という青年は、見た目はわからないけど実は軽度の知的障害者であると語られています。

そして、不良の人たちは敏感に嗅ぎつけてきて、自分たちの罪をなすりつけます。そして、無実の曽我部少年は刑務所に5年間入ることになります。

刑務所でも狙われていじめられる曽我部くん。耐えきれず薬漬けになったとのことです。

そして、出所後の曽我部くんに対し、いじめっ子金本は、コカインと大麻の小分けを、あろうことか曽我部くんの自宅で行うことにします。嫌と言えない曽我部くん。徹底的に喰い物にされている感じです。

運命には逆らえない。もう逃げられない。」と従う曽我部くん。

そして、曽我部くんは捕まります。コカインと大麻の所持によってです。

その時にとった九条弁護士の対処方法に、薬師前さんは「倫理的に許されない」と言って、九条弁護士を責めるのです。

世の中は何で回っている?

曽我部に罪をあえてかぶらせることで、実は曽我部の命を救った九条弁護士。罪をかぶらず真実を語っていたら、法律上は無罪になったとしても命は危ない、そのことを、九条弁護士は理解し、曽我部も理解していた。

世の中は何で回っているか?倫理でも法律でもない、物事の道理だ、と。そして、道理を理解しているかは、知的障害のあるなしとか、倫理観に優れているかとは関係がない、と。

道理を理解していた九条弁護士や曽我部くん。

道理を理解できていなかった薬師前さん。

道理って難しいもんだと思いました。

私も、こんなことを書いていますが、今回の話のような道理はわからなかったと思います。

修羅場をくぐってきた曽我部くんや九条弁護士が必死で生きる中で身につけていったものかもしれないなと思いました。

刑務所に守ってもらう

九条弁護士が狙っていて曽我部くんも理解していたのは、刑務所に入って身を守ってもらう、ということです。

刑務所に入れることで、外部の危害を加えてくる人間から受刑者を守る。それは、刑務所の本来の使い方とは違うのかもしれません。

刑務所本来の目的は

刑務所は懲役刑という、身体の自由を奪う刑罰を実際に行う場所です。そのような刑務所の本来の使い方というか目的としては、ざっくりいうと次のような事が言われています。

①犯した刑罰に対する報いとしての刑罰を与えるという目的です。これは、標語的には、「目には目を、歯には歯を」と言う言葉で表されることも多いです。もっとも、殆どの場合は、目には目を、歯には歯を、と言う単純な関係ではありませんけども。

また、②一般人への威嚇というか、見せしめ的な目的もあります。「あんなことしたらこんな刑罰を科されるのか、じゃあやめておこう」というわけです。

更に、③本人自身の再犯防止と言う目的もあります。「あんな事したらこんな刑罰を受けるのか。不自由になるし人生の時間の無駄遣いになるからやめておこう」のようなイメージです。本人自身が将来再び犯罪をすることが無いよう、一般社会から隔離したり、考え方や行動などを改善させたり教育したりする目的です。

この目の前の依頼者本人の人生にとっては?

このような一般的な刑務所の目的とは別の使い方を九条弁護士は考えているわけです。ある意味、社会のルールに乗っかった上で、依頼人である「曽我部くんの」人生にとって現時点でどの選択がベストかを考えている、ということです。

そのことをじっくり考えると、2つの点で視点が違っているように思いました。

まず、①その目の前の依頼者である曽我部くんにとってどうか、と言う視点。一般的な人の話ではない、目の前にいる、その特定の人生の歴史があるその人に限ってはどうか、と言う視点。

次に、②いま前科が一つつくかどうか、この事件での権利を守るかという短期的な目線でなく、命を守るにはどうすればいいか、曽我部くんの人生を守るにはどうすればいいか、と言う少し長期的な視点です。

実は弁護士としての職務からは思い切って踏み込んでいる九条弁護士

①依頼者のために力を尽くす

弁護士としては①その時点での依頼者のために力を尽くす、それは、弁護士が事件を受託する以上、当然、仕事の内容に関わることです。そして、その力をどれだけ尽くすか、は、事件の内容や弁護士によって様々だと思います。定型的な内容証明郵便さえ出せば片がつくものから、複雑で弁護士の腕の見せ所のような事件もあったりと様々でしょう。共通しているのは、依頼者の利益のために力を尽くす、ということです。

まずは訴えられないようにすること。金本に対してはまずこれを勝ち取ります。

次に、訴えられて有罪にならないようにすること。ですが、現状の刑事裁判は、訴えられて無罪になる確率が1%以下と極端に低いため、自宅で証拠物件を押収されている今回の事件では現実的ではありません。

次に考えるのは刑務所に入らなくて済む執行猶予を勝ち取ること。ですが、5年前に強盗致傷罪で懲役5年の実刑判決。そして実刑を終えて出てきたばかり。

曽我部くんはまだ執行猶予をつけられたことはない様子ですので、初度の執行猶予になります。そうすると、ざっくり言えば、

  1. 禁錮以上(死刑・懲役・禁錮)の前科がない、か、
  2. 禁錮以上の前科はあるけれども刑務所を出所してから5年経った

かのどちらかに当てはまることが必要になります(刑法25条1項)。

曽我部くんは強盗致傷罪で懲役5年の実刑判決を食らっているので、1はダメ。

そして、刑務所を出所してから1年も経っていないので「出所してから5年経った」と言う条件も満たしておらず、2もダメ、ということになります。

ですので、実刑、つまり、刑務所に入れられるのは確実。あとは、その期間をいかに短くできるかです。

そして、本当は売ってお金に変えていたわけですから、営利目的で3年になるはず。それを、単純所持、つまり、売る目的でなく、自分ひとりが吸って気持ちよくなるだけのためでした、として1年半に縮めました。

これは、実際に起きていたこととは違いますよね。曽我部くん自信は吸わず、金本たちが売ってお金を儲ける為の置き場所として利用されていたわけです。

でも、今相手が持っている証拠とかを考えたら依頼人曽我部くんの利益に一番なるのは、犯罪を軽くすること。世の中の真実がどうかというよりも、依頼人にとって一番利益になる戦略は何か、それを考え、アドバイスする、ということ。

真実がどうか、というのは、検察官の仕事。検察官は国家機関と言う立場で国民から集めた税金を使って真実を追求してきます。それを弁護士が防御する。そのせめぎあいが世の中の事件に対し何らかの解決というか落とし所をもたらす。人類が、中世暗黒時代の魔女裁判やいろいろな歴史を経て生み出してきた知恵の結晶としての刑事裁判制度。国により時代により変わりますが、現在の日本ではそういうたてつけなのです。

九条弁護士は、弁護士として大変いい仕事ぶりだったと言えるのではないでしょうか。

でも、真実とは違う、という点で、一般的には受け入れられないかもしれません。こういう点で悪徳弁護士とのイメージがつけられているのではないかと思いました。

②現在の依頼内容をも超えた長期的視点

弁護士の職務としては、以上で完了です。もう文句のない仕事ぶりだと思います。

普通はこれで終わりです。例えば、金本に対しては不起訴を勝ち取った時点で九条弁護士も関与しなくなります。

他方、曽我部くんに対しては、法律や刑務所制度を盾に命を守る、と言う道筋を作ります。そして、判決が出る前の接見で、「金本と縁を切るなら受刑した後」と九条弁護士は言っています。金本と縁を切る、という、そのことについても視野に入れているんです。

金本と縁を切る、ということは、現在の曽我部が問題になっている事件で曽我部が何罪か、という事とは直接には関係のない話です。

ですが、そこまで踏み込んで話をしています。法律では守れない曽我部の命のことまで考えに入れているのです。

最高の仕事+道理+?

九条弁護士は、弁護士としても最高の仕事ぶりを発揮します。

それに加えて、世の中の”道理”というものに照らして法律だけではカバーできない部分まで考慮に入れます。

それを突き動かしているものは何か。弁護士としては、法律家として最高の仕事をすればいいのに、道理という面倒くさいものまで考慮して物事をすすめる。

そこには、はっきりとは見て取れませんが、大河の源流のように九条弁護士を突き動かしているものがあるのではないでしょうか。

今後の展開が楽しみなところです。

親との関係

作中で、親との関係が出てきます。

母親との関係

まず時系列的に見て出てくるのは、曽我部くんの母親が、曽我部くんが運動会でビリでも頑張っている姿を見て、応援してくれるどころか、自分の存在を恥ずかしがっていたというエピソード。

この場面では応援するだろう、と期待して読んでいたので、私にとってもショックでした。せめて親だけでも応援してあげてよ、と思いました。周りの人の目を気にして惨めな思いになっていたのか、自分自身を責めていたのか、わかりませんが、幼い曽我部くんにとってそれはないだろうというかわいそうさです。

自分の価値を否定されたように感じた幼い曽我部くん。そんなショックな事があっても、その怒りを他人にぶつけるというわけでもなく懸命に生き抜いてきただけで偉いなと思いました。

いじめられる父親

父親と自分の2代にわたって、いじめを受けます。

同じ家族の親子に2代にわたっていじめを受けるんです。

この悔しさは計り知れないでしょう。

そして、この環境から抜けることができないと諦めています。負の連鎖というか蟻地獄です。

抜け出すきっかけ

でも、あるきっかけで、この負の連鎖から抜け出すことができました。

きっかけになったのは司法ソーシャルワークの薬師前さんから聞いた、お父さんの頑張り

親子関係に希望の光が差し込むようなエピソードが、この出口のなさそうな物語にかすかな希望を感じさせます。

司法ソーシャルワークの方たちによる身元引受やサポート。

そして、曽我部くんをいじめの加害者から、法律や刑務所という制度をうまく活用して守った九条弁護士。

それでも、この負の連鎖の環境から抜け出せる糸口はなかなか見えません。九条弁護士も判決が出る前の接見で、「金本と縁を切るなら受刑した後」と言っています。金本に刑務所の中から一矢報いる、というのは、九条弁護士の考えていた筋道じゃありません。曽我部くん自身の決断と行動によるものです。

やはり、本人抜け出そうという意思を持つかどうか。

最後の決定打になったのは、本人の決意でした。

司法ソーシャルワークで、身元引受や職場斡旋、住居の確保など、環境を変えるサポートはすることができる。

だけど、抜け出すかどうか決めるのは最後は本人自身。そんな時、心の支えになってくれるのは、家族への思いだったり大切な人への思いだったりするんだろうななんて思いました。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

真鍋昌平さんの、精緻な作画や練られたストーリーに加えて、ある種非日常な、リアリティ感や世の中の裏側を見ている感が面白いなあと読ませていただきました。そして、主人公は噂では悪徳弁護士と言われているけど、なんだか深みと温かみのある主人公なんじゃないかという気がかすかにしてきました。

これからどんな展開になっていくのか興味津々です。

皆さんも興味を持たれたら読んでみてくださいね。

読んでいただいてありがとうございました。この記事が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。

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