「風の谷のナウシカ」漫画版の感想【ネタバレあり】人間の業の深さを覗き見る

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皆さん、「風の谷のナウシカ」ってご存知ですか?そう、宮崎駿監督のあの作品です。

1984年に公開された映画版をご存じの方も多いのではないでしょうか。

私も映画版を何度かみたことはあるのですが、何度も見ているにも関わらず、「どんなストーリーだったっけな〜?」というような、なんとも曖昧な記憶しか残っていないのです。不思議です。あんなにも有名な映画で、何度も見ているにも関わらずです。

そんな状態のまま人生を過ごしてきたわけですが、ここ最近、You Tubeを見るようになってから、ナウシカに関する動画を何度か目にする機会がありました。

そこで語られているのは、ストーリーの概略などはもちろんのこと、解説している方の、「これは見たほうがいい!」と言う熱量。

そういう動画に触れるに連れ、なんだか原作漫画を読みたくなってきました。

そこで、ついに、先日、7巻セットを買い、読んでみました。

その感想を書いてみたいと思います。

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目次

最初は何が何だか分からない

読みはじめてしばらくは何がなんだかわかりません。一応の説明はありますし、表紙をめくった裏にもかいてありますが、それと作中の人物や場面とが容易には結びつかず、何がどうなってんの?と言う感じでいるうちにどんどん色んな立場の人達が出てきます。

地形図もあったりはしますが、きれいな絵柄でストーリーを読み進めさせる力が強いせいか、いちいち地図を確認しようという気にはならないまま物語は進んでいきます。

勢力関係が複雑で、何となくぼやーんとここがここを狙おうとしているのかなー?くらいのまま結構な怒涛の展開で物語は進んでいきます。

そして最初は敵グループがいろんなことをしているだけだったのが、味方グループも何手にも分かれて物語が進んでいったりと、複数展開する場面が増えてきます。

そんなこんなで何が何だか分からないまま物語は進んでいきます。というかじっくり考える暇を作るよりも先へ読みたい、という風に物語の面白さにグイグイひっぱられていっている感じです。

最初はわからなくてもそのまま読み進んでいけば大丈夫です。

現実でもありそうな人間の腹黒い所がかいてある

出てくる勢力関係が複雑なのと絡んで、現実世界でも起こりうるんじゃないかというような人間の腹黒い所がかいてある感じです。

大国の小国利用

大国が小国を利用して自分の国の利益を図る、と言う場面が出てきます。

大国が小国を服従させて危険な業務を任せる。小国は仕方がないと思いながらも一生懸命やるけど大国は使い捨ての駒の一つとしか思っていないとか。

当時は大国アメリカとソ連の冷戦があった頃なので、それを反映していたのか、大国対大国の争いに巻き込まれて翻弄される小国、と言うテーマが漫画でも書かれたのかなと思いました。

何となく米ソ冷戦やベトナム戦争のことなんかを思い出させられました。

宗教と盲信と政治的利用

宗教を政治の場に持ち出した宗教国家っぽい大国も出てきます。

宗教の政治利用ですね。しかも、土着の宗教とその宗教の指導者層を政治に取り込みます。

支配者層の目論見通り、その宗教を信仰している方々は、宗教の一番偉い人の言うことに一糸乱れぬ統率力で従います。それを政治勢力が冷めた目で利用している、と言う構図です。

土着の宗教を利用する、という点も現実世界でありえそうな話だと思いました。

ホモサピエンス全史でも出てくるような、宗教の力を利用した多数人の意思の統一をここで描いているなーと思いました。

兄弟をも裏切る大国の後継者達

対するもう一つの大国は、兄弟の間で他の兄弟を蹴落として後継者の座を奪い取ろうとする、骨肉の争いを描いています。

裏切りに裏切りを重ねて権力を求める。能力のある王の娘が、「無能な兄たちは自分を疎ましがって殺そうとしている」と考えるという。そんな国に平安はあるのだろうか。

兄弟をも蹴落として王位につく。それは、人間の歴史を見れば色んな国々で行われてきたことなんだなーとわかります。

これだけ色んな国でやられてきたんですから、権力を目の前にした人間ってそういうものなんでしょうかね。

映画版の終わりはスタートラインに立ったに過ぎなかった

出典:スタジオジブリ公式サイトより

王蟲(オーム)と呼ばれる巨大な芋虫のような生物が出す金色の触手の中で立つナウシカ。そんな姿が印象的な映画版は、漫画版のナウシカの物語のスタートラインに過ぎません。

作中の世界に伝わる、ある伝説を思い出すきっかけになった、そして後への伏線が出たところで終わった、と言う感じです。

映画版のシーンの後、ぐんと物語が展開していくという感じです。

語られている価値観

ナウシカで取り上げられている価値観について気になったものをピックアップしてみました。

マイナス面

まずはマイナス面。人間の醜い面ですね。

裏切り

ナウシカの物語に出てくる大国は、大国なのに、裏切りの空気で満ち溢れています。

王女である妹を裏切り、殺そうとして危険な戦地へやる兄王子たち。

自分たちを信頼している小国を裏切り、滅ぼす大国。

小国を自分たちの駒のように危険な戦闘に招集し、使い捨てる大国。

この物語では、権力を持っている側の裏切りが多く描かれているように思います。

宗教を利用する

古今東西色んな国で古くから用いられてきた、まさにホモサピエンスの繁栄に大きく貢献したことの一つが、宗教を利用した民衆の意思の統一でしょう。

宗教の政治利用を冷めた目で汚く利用する大国が描かれます。そして、まんまと宗教の力で非人道的なこともいとわない信者たち。盲信って怖いなと思わされます。

ただ、読んでいて捨てたものでないなと思わされるのが、宗教指導者の人間性です。途中から、ナウシカの持つ力に気づき始めます。そして、宗教を利用してこようとする大国指導者との板挟み。

こういう、単純な善と悪では捉えきれない関係性を描いているあたりが、考えさせられます。

騙す

騙し騙される。騙したつもりが、相手が上手で騙し返される。

小国を騙して自分たちの都合のいいように利用する。

そして、ずっと最後の方で出てくるのですが、ナウシカの世界に生きている人たち生き物たち皆(大国小国ひっくるめてみんな)をも騙して自分たちの世界の復活をもくろもうとしていた人間たち。騙し合って争っていた人たちみんな、実はもっと大きなものに騙されて利用されていた、という話が最後の最後で出てきます。本当に気づかないといけなかったのはこっちなのに、目先の騙し合いに目を奪われてこっちの大きいところに気づいていなかったという話です。

プラス面

他方、人間の持つプラスを持つ人物たちも何人も出てきます。

はじめからナウシカ側の人もいれば、最初は敵側だったけど、ナウシカと出会って段々とナウシカと親和的な行動を取るようになっていく人たち。

それらのプラスの性質についてもピックアップしてみました。

優しさ

この物語で一番ナウシカを通して描かれているのが優しさでしょうか。

第1巻の巻末に宮崎駿さんが書かれている文章があって、そこに、「虫愛ずる姫君」という平安時代の文学に出てくる人物がナウシカのモデルになったと書いてあります。

正直自分は虫が嫌いなので、気持ち悪いなーと思ってしまうかもしれません。

ただ、いい味方をすれば、虫のような外見が気持ち悪い生物に対しても自然として、生物として愛する心を持つという優しさを見出すこともできなくはないでしょう。

劇中のナウシカは、虫とも心を通わせる人物として描かれます。

そして、人に対しても、敵味方別け隔てなく、優しい心を持って接する人物として描かれます。あたかも母性愛のように。それは、自分の命を狙ってきた敵に対しても、誰からも恐れられる巨神兵に対しても揺らぐことがありません。

こういう、泥の中に割く蓮のような存在というか、前述のような汚く醜い世界の中で優しさという光がどれだけ多くの人の心を照らすか、ということを具体的に描いている点で、読者に希望の火を灯すような物語なのかもしれません。

芯の強さ

ナウシカはただ優しいだけじゃありません。風を読んでグライダーのような乗り物を誰よりもうまく操り、鳥のようにピンチのときも立ち向かっていきます。その芯の強さ、何事にも向かっていくたくましさも描いています。

ただ優しいだけだったら、最初の方でナウシカは呆気なく亡くなっていたでしょう。

暴力や欺瞞で満ちた世の中では自分や守りたい人を守れる強さ、立ち向かっていける心の強さが大事、という、ある意味リアリティーのあることも感じることができるのではないでしょうか。

気高さ

この物語で至るところで感じたのが、気高さを備えた人たちの活躍です。

主人公のナウシカだけでなく、ナウシカを取り巻くおじいさんたちやナウシカの味方の青年。そして、敵方の僧侶や敵方の王女・王女の部下・道中で出会う人々。至るところに、そして、ピンチのときにこそ出てくる気高さ。人間性とでもいいましょうか。

そして、読後に爽やかさを残すものも、そこかしこに出てくる、登場人物たちが見せた気高い人間性が心のなかに残っているからかもしれません。

この世界の土台が仕組まれたものだと最後の最後で知る

思いっきりネタバレなのですが、そもそものナウシカのいる世界全体が、以前いた人間のせいで汚染されてしまった世界をきれいにするための浄化装置だ、と言う設計です。

つまり、これまで展開されてきた領土争いや権力争いなんかが何だったんだと全てちっぽけに思えてしまうような大どんでん返しなわけです。

人間の存在意義は?

では、ナウシカたちの優しさや気高さは何だったんだろうと。人間が単なる浄化装置としてしか見ていない生物たちの中で示された気高さが、本当の人間たちよりも気高かったら、人間って何なんだろうと。存在意義があるのか、と。

世界を汚染した人間たちが復活するより、ナウシカ達がいる世界のほうがいいんじゃないかと。

Alと人間に置き換えたら?

ここでAIと人間の関わりなんてことも頭によぎりました。

もし、人間よりもAI(でもなんでもいいですが)のような人間以外の者のほうが人間よりも優しく気高い判断や行動をするようになったら、と。

人間はおとなしく統治者の座を譲るだろうか、と。

おそらく譲らないでしょうね。人間は地球の統治者のままで居続けると思います。

人間という存在自体が地球にとっていいか、と言う神様から見たような観点ではなく、人間自身が、生き延びたいから色んなことをして生き延びている、といったところでしょうか。

人間は地球の統治者にふさわしいか、というテーマは、漫画「寄生獣」にも出てきたテーマにも通じるような気がしてきました。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

ナウシカ漫画版を通して、人間の存在意義はなにか、人間らしさというものはなにか、ということまで思いを馳せることができるというのは我ながら驚きでした。

単なる、自然を大切にしようとか、愛は地球を救うとかいう、耳障りの良いテーマでなく、人間の業の深さ、人間はどうしようもない面もいっぱい持っているし、気高い面ももっているし、人間って地球の統治者という面から見てどうなの?という深い問いにもつながっているんだなと私は思いました。

皆さんはどのような感想を持たれるでしょうか。

もし機会があったら漫画版の「風の谷のナウシカ」を読んでみてくださいね。

読んでいただいてありがとうございました。この記事が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。

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